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周波数ひずみとコーディングFREQUENCY-RESPONCE-DISTORTION AND CODING

周波数ひずみとコーディング

テクニカルノート「周波数とデータレート」を前編に、今回は続編としてさらに掘り下げた「周波数ひずみとコーディング」について、お話をします。「周波数とデータレート」をお読みでない方は、まずそちらからご参照いただけると幸いです。 前回よりはやや難しくなるかもしれませんが、あくまでコネクタメーカの目線、いわば素人目線から理解でき、かつ必要となる範囲を切り取った内容を簡単にまとめています。非専門の方に向けてまとめており、専門に扱う方には噛み応えのない内容かもしれません。それでも、一つの切り口として楽しんでいただける方が少しでもいらっしゃれば、うれしく思います。

8b10bについて

8b10bというコーディング

8b10bは1980年代前半にIBMが開発した発明したコーディングで、10b8bと呼ばれることもあります。10bit分の「データ長」で8bit分の「データ」を送る方法ですので、効率は80%=20%の「余分」があるわけです。この余分をもつことで、1本の連続した信号の羅列から、8bit(バイト、オクテット)の区分(先頭)をわかるようにしたものです。シリアル伝送をパラに戻すときのクロックを同送させたわけですね。それを効率よく表現するために図1のようなコーディングを開発したわけですが、正直私もこういうのを見て頭が痛くなる種類の人間の一人なんです、恥ずかしながら・・・

8b10bより高効率へ

最近は「この20%のロス分がもったいないよね」ということで、64b66b、64b67bや128b130bといったコーディングが開発されています。たとえば、64b66bは66bitのデータ長で64bitデータを送るコーディング(約97%の効率)です。いずれの方法でも8b10bに比べると「余分の占める率」がずっと低くなります。

それでも8b10bが未だに重宝される理由 「低周波の制限」

それでも、8b10bは未だに重宝されています。その1つの理由は、このコーディングの副次的な効果として「0や1があまりずっと続かない(最大4つ)」という点です。「周波数とデータレート」の回の「データレートと周波数 ③0や1がしばらく続く場合と低周波成分」で簡単に説明しましたが、0や1が続く=忙しくなさそうなほど「より低い周波数成分を含む」ことになります。つまり8b10bにおいては、シンプルなランダム信号に比べてバサッと低域をカットできて、「伝送路を介した信号伝送」には非常に優しいのです。
ただ、「周波数が高いと難しいのはわかるが、なぜ低い周波数がない方がいいのか?」と思われる方がいらっしゃると思いますので、つぎにその辺り=「伝送特性の周波数ひずみ」に話を移していきたいと思います。

伝送特性の周波数ひずみと方形波/矩形波

伝送路から受ける周波数ひずみ

電気信号は、伝送路を介して相手側に送られるとき

① 大きさが小さくなる
② 届くのに時間がかかる

という2つの現象が起こります。これは万物、物を運ぶのには時間がかかりますし、エネルギーを消費するので割とわかりやすいと思います。
① を挿入損失(Insertion Loss)、②を伝搬遅延(Propagation Delay)等と呼称します。この2つの特性はそれぞれ周波数に依存して傾向が変わっていきます(図2)。 

高周波にいくほど減衰は大きくなります。つまり信号がどんどんエネルギーを失い、小さくなってしまうのです。これは導体の表皮効果や絶縁物の誘電損失といったもの、また反射と呼ばれる現象の影響で引き起こされます。この辺りが、「高周波の方が、伝送が難しい」といわれる一因です。一方で、遅延時間も高周波にいくほど「少しだけ」短くなっていき、実は本来のある値に漸近していきます。これは主に表皮効果による導体内インダクタンスの低下という現象により引き起こされます。これが、信号が伝送路から受ける周波数ひずみです。

信号波形はどういう変化をするのか?

そこで、方形波/矩形波が伝送路を伝搬した後に、どういった影響を受けるのか見てみましょう(図3)。


「波形がなまった」という、恐竜の背中の突起物のような、「なまったのこぎり波」のような水色のラインの波形を見たことがある方は多いかと思います。この波形は挿入損失と伝搬遅延の双方の影響の合算でもたらされます。「周波数とデータレート」の回の「データレートと周波数② 方形波/矩形波と高調波」で説明したとおり、方形波/矩形波は、基本周波数と高調波という正弦波の重なりでできています。

まず挿入損失の影響で、より高周波である高調波の方がずっと小さくなるので、ベースとなる基本周波数の正弦波の特徴が強く出てより柔らかい=正弦波に近づいたような波形なります(ピンク色)。

一方で、伝搬遅延の特性で高調波ほど前へ前へと突っかかっていくので黄色い波形のように前方ほどエッジが効いた、後ろはなで肩になるような特性を帯びていきます。ちなみに、この基本周波数と高調波の遅延のずれを群遅延=Group Delayといいます。

この2つの影響が合わさって、最終的な出力波形は前述の水色のような、「なまったのこぎり波」になるのです。

まとめ

「大きさは小さくなるし、遅れる」けれど、もしその程度が周波数に対して一定ならば、全成分が均一に小さくなり遅れるので、「四角は四角のまま」小さくなるだけです。こういったなまった波形にひずむのは、伝送特性が周波数に対して差分をもっている=ひずんでいるから起こる現象です。そして、このなまった波形は、程度によって「0と1をタイミングごとに判断する」デジタル伝送信号としては結構面倒なのです。加えて0や1があまり多く続かないことがなぜ伝送路を介した伝送に有利なのかについては、次の項でお話ししたいと思います。

「アイパターン」と「0もしくは1が続くということ」と「判定閾値(スレッシュホールド)」

アイパターンとは

ご存知の方も多いと思いますが、「アイパターン」と呼ばれる伝送品質の確認方法があります。これは、0か1かを各タイミングで判定するための余裕を視覚化したものです。ランダム、あるいは実際の送受データのデジタル信号を、各ビット区切りで「重ね書き」して表します(図4)。

アイパターンと判定のための余裕を表現したのが、図5です。ここで目がぱっちり開いていることが、健全なデータ伝送の指針となります。それでは、アイパターンで見る信号品質について、説明します。

アイパターンで見る信号品質=縦方向

まずは縦方向の「開き」から。0か1かの判定は、電圧でします。受信側の性能に応じて、この判定のための「しきい」となる値=閾値/スレッシュホールド電圧というものがあります。微妙なところは判定があいまいになってしまうので、その判定には「余裕」が必要です(図5 ①)。

受信される信号は、その余裕を超えて上か下かで0か1を確実に判定してもらう必要があります(図5 ②)

アイパターンで見る信号品質=横方向

一方の横方向ですが、タイミングに関しても「今0とか1とか判断したものが、いつの(どの)信号」なのか、正しく認識されなくては信号として成立しなくなります。ですから、混乱を避けるためにはタイミング方向にもあいまいになる部分に「信号がかからない」「ビットの変わり目が入り込まない」余裕が必要になります(図5 ③)。

そのため、信号の変わり目はシャープに立ち上がっていた方が良く(図5 ④)、前項で見たような「なまったのこぎり波」のような波形は、ただ四角が小さくなるよりも「前後bitとの混乱の発生」を引き起こしやすいだろうことを何となく感じとっていただけるのではないかと思います(図5 ⑤)。

0や1が長く続くと・・・・/8b10bは伝送路に優しい

続いて、ようやく「0や1があまり多く続かないことがなぜ伝送路を介した伝送に有利なのか」にお話を進めます。
図6は、ランダム信号を前項で説明したような典型的な特性を持つ伝送線路を通過させた際にどのような波形が出力されるか、それをアイパターン化したらどうなるかを示したものです。

ここで感じていただきたいのは、

① 何となく波形が上下にふらついてる
② このふらつきに判定マージンが縦も横も食われている
③ 0や1が続くときと繰り返すときにどうも挙動が違う

という点です。

「周波数とデータレート」の回の「データレートと周波数③ 0や1がしばらく続く場合と低周波成分」項にて説明したように、忙しそうに動いているときは高周波、同じ信号が続いてゆったりとしてる場合は低周波成側に主要成分が移ります。前項の通り、典型的な伝送線路では高周波側に行くほど信号出力は小さくなるのでこういった現象が起きます。

図7にイメージを示しましたが、忙しく切り替わる信号は抑えつけられて相応に小さくなる一方で、「低周波=動きがゆっくり=それならさほど小さくならない」ので、0や1が続いた場合はじわじわと「本来の出力値」に近づいていきます。これが実は問題で、再び忙しく動こうとしたときにはその動きは制約されるのですが、その時の「スタート地点」が単純な繰り返し信号とは違うのです。これが上下にふらつく要因となり、結果縦も横も判定マージンを「食って」しまいます。この現象は当然0や1が長く続くほど顕著になり、それ故に、それがあまり続かない8b10bのコーディングは「伝送路を介した伝送」に非常に優しいといえるのです。

さて、次はこの周波数ひずみに対応したイコライジングとプリエンファシスおよびディエンファシスについて少しだけ話をしたいと思います。

イコライジングとプレエンファシス&ディエンファシス

イコライザについて

図8にイコライザのイメージを描きましたが、簡単にいえば「周波数ひずみがあるなら、その逆の特性に近いもので補正してやればよい」というものです。

基本的にはハイパスフィルタで、パッシブ=受動回路型(低位域を削る)ものもアクティブ=能動回路型(高域を持ち上げる/低位域も削ったりする)もあります。これらによって、普通の01の方形波/矩形波信号のみでは「アイパターンの目がつぶれて」成立しない信号伝送も可能になっているのです。プリセットのパターンを使うものもありますが、DFE=ディシジョンフィードバック(判定帰還型)イコライザ等、実情に合わせて信号伝送の合間にチューニングするようなものもあって、高速伝送とは切っても切り離せないものになっています。

我々コネクタメーカとして気にすべきポイントは、「周波数に対して素直に」信号を劣化させる分には助けてもらえるということでしょうか。例えば、図9に示した2種類のコネクタの挿入損失では、青いラインの方は12GHZ付近に対周波数で見たとき、素直でない大きな落ち込みがあり、再度復活しています。そういう点では、橙のラインのコネクタの方が、イコライザの助けを借りる前提としても高い周波数まで使えそうです。

プリエンファシスとディエンファシス

伝送路の周波数ひずみに対応する別の方法として、プリエンファシス/ディエンファイス/ディエンファシスという方法があります。忙しく動く時=高周波とイメージしていただきましたが、高周波ほど信号が小さくなるということは、すなわち「素早く動こう」とするほどその動きを押さえつけられてしまう=変わり際に変わり切れないということと概ね同義になります。そこで動きがある時=変わり際だけ、元の信号に過剰な変化を付けさせて突き抜けさせ、「そこが抑えられたときにつじつまが合うでしょう!」としたものがプリエンファシスになります(図10)。

ディエンファシスも概ね同じものですが、こちらは忙しくない所=同じ電圧が続くところを削ることで相対的にプリエンファシスと同じ効果を狙ったものです。元より信号は小さくなっても、パッシブのイコライザもそうですが劣化した後のアイはむしろ開きます。
前項の図7辺りと併せて頭の中でイメージしてもらうと、「ああ、効果がありそうだな」と感じていただけるのではないかと思います。
私がプリエンファシスという言葉を始めて耳にしたのは、約20年前で今と遠くはない別の業界にいた頃でした。その時はど素人の分際で「イコライジングに比べるとずいぶんザクっと乱暴な方法だなあ」というのが第一印象でした。しかしながら、所詮はど素人の感想で、実際には極めて合理的で多大な効果があり、現在では広く使われています。次は少しPAM-4といわれるものについて話をしてみたいと思います。

PAM-4について

一般的にデジタル信号は0と1でできていて、それをHighかLowで判定することでシンプルでより確実な情報伝達方法となっています。一方で最近耳にすることが増えてきた方法でPAM-4があります。0と1の2段階でなく、2bit分を縦に積み上げ、00,01,10,11の4段階で信号を伝送する方法で、図11のような波形になります。ちなみに、4bit分を縦に連ねるPAM-16や、GbEitherを4ペアのUTP(シールドのないツイストペアケーブル)で送付する際2bit分にクロックを加えたPAM-5という特殊な例もあります。

図12に簡単な01信号(青)をPAM-4形式(橙)に変換してみたものを描いてみました。そもそも2bit分を一気にという点からもイメージできている方は多いと思いますが、青と橙の波形の変動を見ると「青の方が忙しそうに動いている」感じがすると思います。PAM4の一つの特徴として「基本周波数成分を低く=半分に出来る」点があげられ、懸念すべき帯域が下がることはEMC的な観点でも伝送路から見ても歓迎すべきことではあります。一方で、縦方向には動きがまったりした分、やや動きが複雑になります。

再度図11を見ていただくと、通常は1か所だったスレッシュホールドが3か所になっているのを見ていただけると思います。前々項の「「アイパターン」と「0もしくは1が続くという言いうこと事こと」と「判定閾値(スレッシュホールド)」」で読んでいただいたとおり、スレッシュホールドの余裕の確保を縦に連なった3弾で実現しなくてはいけないということで、これはちょっと普通より大変だなというイメージはもっていただけるのではないかと思います。すなわち、懸念すべき周波数そのものは低くなるのですが、下がった一方でその時の伝送精度はより厳しくなるのです。周波数ひずみや、伝送路を構成する製品毎のバラつきに関しても同様で普通の信号伝送より低い所までの周波数ではあっても、その分そこでの各バラつきや不安定さはずっと小さくしなくてはいけないことになります。コネクタにとっても、要求される性能は結果としてこれまでの高速伝送対応と同じですが査定される「ツボ」が少し変わってくるという感じです。

最後に

今回切り取らせていただいたトピックスは、高速伝送の中でもほんの一部の話です。例えばコネクタなどを同じ「XXGbpsで使用します!」という状況でも、その詳細によって実際に要求される内容やレベルは少しずつ違ってきそうだなと感じていただけるとうれしいです。
イリソ電子工業では、現在自社にて定義を明確にしたうえで代表的な推奨対応データレートを公表した上で、お客様での使われ方を吟味しながら最適な製品を提案できるような取り組みを行っています。高速伝送を支える末端に身を置くコネクタメーカとしては、油断していてはあっという間に取り残されてしまう世界です。日々の研鑽に緊張感を持って取り組みながら、側方支援でも最新のテクノロジを支えられることに喜びを感じています!

参考

当社が公表している代表的な推奨対応データレートをご紹介します。